(注意:本記事には動物の死体や、肉を捌いている写真が含まれます。)
午前中に留守電が2本入っている。
知り合いの猟師さんからだった。
「今日朝方、鹿がとれました!あったかいから水につけてます、今日中にばらすよ。来れる時教えてください!」
「おーい!どこにいるんじゃ〜、何人くるか教えてください!」
音が割れるほど大きな声で留守電を残すところが、この人のチャーミングポイントだ。
電話を折り返して、14時から私含め3人で見に行く約束をする。
池田に移住して来てから、獣の解体を見るのは夢だった。
「獣の解体を見たいから、その時があったら教えてください!!!」
いろんな人にお願いしてから、およそ1年半。
ついに、ついに・・・!タイミングが合う時が来たのであった。
心臓がばっくばくだった。
返り血あびるかな。
気持ち悪くなるかな。
やっぱり見ていられないって思ったらどうしよう。
お昼時なのに、どんどん食欲がなくなっていく。
何を隠そう、私は大の血嫌いなのだ。
自分の指を切ってしまって流れる血を見て、呼吸が浅くなり床にへたりこんだことは少なくとも3回ある。
そんな私が獣の解体を見ることに耐えうるのだろうか・・・。
血に対する耐性のなさが恨めしい。
腹をくくり、14時まで心構えをすることに集中した。
14時に間に合うよう、現場に向かう。
そこには確かに死んだ鹿があった。胸をひとつきされている。
もはやそれは、死んだ鹿というより、食べ物と言った方がしっくりきた。
猟師さんいわく、去年生まれた子どもだという。肉が柔らかいんだとか。
水からあがった鹿をまじまじと見てみる。
まず驚いたのは、マダニがめちゃくちゃいる。
人の皮膚に頭を埋めるマダニ・・・噛まれたらかなり厄介なマダニ・・・!
噂に聞いていたマダニを目の前にして、サンダルと半袖で来たことを後悔するものの、その隣で猟師さんが素手でマダニを潰している。
「っつぇ〜!血を吸ってる時にやるとぷつんと潰れるんだけど、ん!ん!潰れんのー」
こ、この人・・・前から知ってたけど本物だ・・・!
マダニを手で潰せるなんてかっこいい。と、謎の敬意を抱いてしまう。
何か手伝うか?と聞くと、見てればよろしいと言われ、見学させてもらうことにした。
尻尾の近くを、手で何度か押したと思ったら
「はいはい、わかりましたよ〜」と言って、ナイフを刺した。
背中の皮に一本の切り込みを入れ、側面の皮を剥いでいく。
血抜きが済んでいるからか、血はほとんど出ていない。
全く乱暴ではないやり方で、どんどんばらされていく。見ていて安心感さえある。
心構えに時間をかけたおかげか、全く動揺しないで見ていられた。
立派な肉と骨が露わになるたびに「これは鹿が食べたものからできてるんだよな〜すごいな、そして私はそれを食べるんだよな」と食物連鎖に思いを馳せる。
夏の獣は脂が少ないため、ほとんど赤身だ。
目の前で起こっていることに集中していたら、あっという間に一時間が経過した。
ひとしきり解体が終わると、猟師さんがおもむろにスイカが出してきてくれた。
タネはどこへ捨てたらいいか?と聞くと、要らない肉をまとめてあるペール缶の中へ吐けと言われた図。
スイカと鹿肉が同居するなんてこと、そうそうない!と思って思わず記念撮影をした。
ちなみに今回一緒に見に行った二人は、私の大学の現役後輩ちゃん2人だ。
たまたま池田へ来ていた時に、解体の機会があった。本人がどう思っているかわからないが、私は見てもらえてよかったと心底思う。
-捌く-
猟師さんが、切断した足は要らないというので、もらって自分で捌いてみることにした。
ここで必要なのが・・・そう、捌くための道具。
実はこんな日をいつかきっと迎えるだろうと思い、特別なナイフたちを用意しておいたのだ!ふはははは!
左は、お隣町の越前刃物。もう一本は、池田町でたたら製鉄をしている方と一緒に作らせてもらったミニナイフ。
池田町ライフが確実に深まってきている2年目に心の底から喜びを感じる。
実際にやってみると想像と違って、肉ってとぅるとぅるしてるな。とか、
毛が肉にひっつくとめんどくさいんだなとか、
実際にやってみないと学べないことがいくつかあった。
こんなことを話すと、飛んできそうな質問がある。
「まりこちゃんほんとに何でもやってるけど、何になりたいの!?」である。
どうでもいいが、最近されがちな質問トップ3には入る。
実はこの質問の意味するところがよくわかっていない。
何かになりたくて、手を動かしているのではない。
目的があってそれを達成しようとする効率的な営みではない。
人がボタン一つで済ませるようになった今の暮らしのはるか遠くにある源流を、自分の手に取り戻してみたいだけだ。
取り戻す過程で得られる学びや感覚を大切に抱きながら、その先でしたくなったことに従おうと思っている。そんな非効率的なありさまなのである。
ひとが手足を動かして営んできた暮らしをしてみようとすると、「ほんとに何でもやる」必然性が出てくる。ただそれだけのことで、「何になりたいの?」と問われるほど特別なことではないと思っている。ただ、現代ではそうした暮らしを手に取り戻すことが難しくなってきているから、特別なことに見えるというのは当然だとも思っている。
話がそれてしまった。
この足、肉を削いだらどうなるだろうか?
そう、ひづめと骨だけ残るのだ。猟師さんに事前にどうしたらいいか?と聞くと山へ持っていけばいいと言われた。
私が今回、鹿解体の一連の作業で最も難しいと思ったのはここだ。
「要らない鹿の部位を、山へ持って行く」
聞こえは簡単だろう。しかし、考えてみてほしい。
そもそも山は、誰かが所有している。その所有者のあずかり知らぬところで、勝手に入って捨てるわけにもいくまい。
骨とひづめとはいえ、肉が少しついた鹿の足は、当然山に住む動物の餌になる。クマの可能性が高い。
ということは、民家に近い山へ持って行くわけにはいかない。
さらに、同じ場所に捨て続ければ、そこに餌があると勘違いしてクマなどがよく出没するようになるため、山菜を採るような場所であってもいけない。
ここまで考えて、私の脳は爆発した。
「捨てられないじゃん!?!?!?!?」
すぐさま、猟師さんのところへ戻って考えたことを話す。
「そうだよ、難しいよ」
やっぱりか・・・。到底私に成せる技ではないと思った。
「今からそっちの方(捨ててもいい山)に用事があるから、持って行ってやる」
そういってニヤっと笑った猟師さんが、たくましくてかっこよくてしょうがない。
池田の山を知っている、というのはこのことを言うのだと思う。
-食す-
捌いて得られたお肉を、有難く頂く。
猟師さんからオススメされたのは、カレーとカツだ。
聞くだけでよだれが垂れてしまいそうである。
鹿肉は、焦げると硬くて血っぽいくさみがでる。
そのため、美味しく食べるには焦げることのない煮込みや揚げ物が適しているんだとか。
まずは、町内の料理上手なお友達が、低温調理で鹿肉フレンチを作ってくれた。
猟師さんの血抜きが相当うまかったのか、全く獣臭くない!
低温調理された鹿肉は柔らかく仕上がっており、ニンニクと醤油がよく効いている。
次は、鹿肉カツ。
もう、これは王道に美味しい。とても美味しい。
パンに挟んで鹿カツサンドもした。
他にも、鹿肉ステーキ、鹿肉カレーをした。(写真撮り忘れた)
毎日ジビエを食べていたら、どんな身体になるんだろう?とふと疑問に思う。
試せることなら、1ヶ月間ジビエ生活などしてみたい〜!
-余韻-
鹿捌きに誘われたのは8月13日のこと。
アドレナリンがびんびん出たあの日の身体感覚に、しばらく取り憑かれた。
こうして書ものをしている時も、鹿解体のあの感覚が全身を走って集中できずに何度もパソコンを閉じた。
池田町暮らし(動的)と書ものの仕事(静的)のバランスを取っていくのは、私にとって永遠の課題である。
生まれて2年目の鹿はなぜ、私に食べられることになったのか?
獣害のこと、森づくりのこと、環境変化のこと・・・。
いくつもの問題や課題が絡み合った中に、あの瞬間があったのだ。
もっともっとわかりたい。あの猟師さんの話し相手ができる位になりたい。
単純にジビエをお裾わけできる人になりたい・・・笑
そんな思いがふつふつと湧いて、今日も今日とて罠免許と検索をかける。
まりこ
(本名 川上真理子)
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大都市で24年間をTO DO(したいこと)ファーストで
生きてきて、大学3年の時に自分の在り方の大切さ
に気づく。
ご縁がありたまたま出会った池田町での
素朴で等身大な人や自然に惹き付けられ
大学院卒業後、新卒無職で池田に移住。
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●池田町見習い人(めざせ何でも屋)
●ローカルとジェンダーに強いライター
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好きな食べ物)ちんころいも※池田町限定
現在、畑仕事や古民家改修により筋肉強化中。